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誰も飛んだことのない場所へ。空飛ぶ冒険家

ITO SHINICHI 誰も飛んだことのない場所へ。空飛ぶ冒険家
2017/ 08/30

誰も飛んだことのない場所へ。空飛ぶ冒険家

伊藤 慎一

誰も飛んだことのない場所へ。空飛ぶ冒険家

日本を代表する「空飛ぶ男」である、ウイングスーツ・パイロット伊藤慎一。空に魅せられた理由、彼が見る空の世界、そしてギネス記録を3つ保持してもなお尽きぬ彼の夢。前人未到の挑戦を続ける男の胸に秘められた空に対する想いとウイングスーツの未来について、話を伺った。
伊藤 慎一さんの前回の記事はこちらから

どうしても忘れられなかった「飛ぶこと」への想い

幼い頃はどんな子供でしたか?

子供の時から、外で遊ぶことが好きでした。アウトドアやキャンプだったりが好きで、小学生の時に札幌オリンピックのスキージャンプで選手が飛んでいるのを見て、空を飛ぶことにとても興味を持つようになりましたね。それからは川に飛び込んでみたり、写真をうまく使って自分が高く飛んでいるように見せてみたりして遊んでいました。

子供の時から飛ぶことが好きだったわけですね?

そうですね。それで高校生の時にオートバイが流行っていて、僕も乗っていたんです。オートバイは大きく分けると2種類あって、オンロードという舗装された道の上をバイクで走り抜ける競技と、オフロードという高低差のある山道や林道などの舗装されていない道を走る競技があって、僕はオフロードが好きでやっていたんです。オフロードのバイクはジャンプすることができるので、飛び上がる時の浮遊感がたまんなくて。

オフロードレースにはモトクロスという競技があるのですが、それでプロになろうと思って、高校、大学とレースにずっと出ていたんです。

けれど、大学4年生になり、周りの友人も就職活動をしていく中で、だんだん現実も見えてきて、僕よりもモトクロスが上手な人が沢山いる中でこのまま戦って一番になるのは厳しいなと。

そこでモトクロスは諦めた…と。

そうですね。モトクロスは断念しました。

そこから、大学を出て自衛隊に入りました。自衛隊に入った理由は自分でパラシュートを背負ってスカイダイビングをしたかったというのが本音で。

というのも大学時代にアメリカへ旅行に行ってスカイダイビングをやってみたことがあって、それがすごく面白かったんです。そして、その体験から、パラシュートを背負って一人で空を飛んでみたいと思うようになりました。

まあ、そんな個人的な欲求の為に自衛隊に入った訳ですが、すぐに空を飛ばせてくれる訳もなくて、そのうち「飛びたい」って気持ちが我慢できなくなってしまい、自衛隊をやめてアメリカに行くことにしました。

2009年高度30000フィートからジャンプ(米国カリフォルニア上空)

そこからスカイダイビングに没頭していくんですね。

そうです。そこから年に何回も日本とアメリカを行ったり来たりして、スカイダイビングをする生活を毎年していました。

そして、1990年代の半ばにウィングスーツが登場したんです。

当初は一般のスカイダイバーが着て飛べるような代物ではなく、僕ができるとは全く思えないくらいに特殊なモノでした。飛行機から飛び降りて、ウイングスーツで滑空して、着陸せずに自分の飛び降りた飛行機に戻るという映像を見て、「すげーな!」と思ったことは今でも覚えています。

そして、1999年になって初めて市販のウイングスーツが発売され、当初のウイングスーツよりも性能が改善されて、経験を積んだスカイダイバーなら、ウイングスーツを着て空を滑空することができるようになったんです。

米国カリフォルニアにて

そこからウイングスーツをすぐに始められたのですか?

いえ、その時はスカイダイビングで600~700回は飛んでいたのでウイングスーツの使用規定については問題なかったんですが、スカイダイビングで十分楽しかったのですぐに始めようとは思わなかったんです。

ウイングスーツの使用には、ライセンスを持つ現役のスカイダイバーで500回以上の通常スカイダイビング経験、または最低200回以上の通常スカイダイビング経験とインストラクターの指導が必要である。 (Wikipediaから引用)

2006年になって、当時の僕はスカイダイビングを自分の中で一通りやり終えていて、かなり満足していたんです。そんな時に、ふと「あれ、ウイングスーツやってないな」と思って初めてみました。

先ほどお伝えした通り、最初はあまりうまく飛べなかったんです。ただ、飛ぶことに慣れていくと楽しくなっていきました。ウイングスーツの楽しさについてはこちらの記事から

2011年ギネス世界記録挑戦時(最高スピードと飛行距離)

ウイングスーツの誤解とベースジャンプの危険性

スカイダイビングやウイングスーツって、人が亡くなったりしているイメージがあるのですが、実際はどうなのでしょうか?

スカイダイビングやウイングスーツに関しては、しっかりとした知識を持って準備をしていれば、亡くなる確率はかなり少ないです。

実は空のスポーツにもカテゴリーがいろいろあって、スカイダイビングやウイングスーツはきちっと身体の安全を守るためのガイドラインが確立されているんです。

ただ、ベースジャンプというカテゴリーはルールや団体、規則もなく無法地帯なんです。だから、死亡者が多いスポーツで、毎年数名は亡くなっていますね。

ベースジャンプとは、地上にある建造物や断崖などの高いところからパラシュートやウイングスーツを使って降下するスポーツである。飛行機から飛び降りるスカイダイビングと比較して非常に危険であり、エクストリームスポーツの一つに分類され、その中でも最も危険なものとされる。 (Wikipediaから引用)

なぜそれなのにベースジャンプをする人がいるのでしょうか?

スリルがあって、楽しいからでしょうね。要するにベースジャンプって、崖から飛び降りる訳なんです。だから、崖や山の斜面から突出している木や岩が障害となって、当たってしまうかもしれない。そこで自らの技術で避ける事ができたら、スリルがあって楽しいと思うんです。例えば、カーレースと同じで、どこを走っても良い単調で簡単なコースよりも、路面と車幅が狭くて難しいコースの方が楽しいって感じですかね。

伊藤さんもベースジャンプをするのでしょうか?

僕は絶対にベースジャンプはやらないです。なぜなら、今のウイングスーツの性能でベースジャンプをするのはかなり無理があると思うからです。

一般的なスカイダイビングやウイングスーツはパラシュートを2つ背負って飛びます。パラシュートの開くタイミングは安全を考慮して、高い高度で開くようにしていますし、もし、1つ目のパラシュートが何らかの理由で開かなくても、2つ目を開ければ助かるために用意をしています。

一方で、ベースジャンプはパラシュートを開くべき高度のギリギリから飛び始めるので、そもそもパラシュートを1つしか持っていません。従って、もしパラシュートが開かなかったら、ズバーンと地面に突っ込んでしまうんです。

今のウイングスーツの性能ではベースジャンプはまだ難しいということですよね?

そうですね。ただ、性能が良くなってもベースジャンプは難しいと思います。

もちろん、現在のウイングスーツは最初の頃と比べると性能は改良を重ねているのですごく良くなってます。ただし、今の技術力やアイデアだけでは、これ以上ウイングスーツの性能は上げることは難しくなっています。

理想は限りなく長い時間遠くに飛んでいけて、疲れない、落ちない、スピード調整ができるスーツ。それが完成されればもっと楽しみ方の幅が広がると思います。ただ、現状は難しいですね。なにか新しいアイデアがないかなと考えているんですけど、まだ具体的にはないですね。

BIRDMAN TOPGUNチーム(エストニアにて)

空を飛んでいる時は別世界にトリップする。

ウイングスーツで空を飛んでいる時の精神状態って、どんな感じなんですか?

もちろん、空を滑空している間は集中していますね。違う世界にトリップしている。人間が別のものになって飛んでいる感じです。体をちょっと動かすと、自分が思ったところに飛んでいける。お化けじゃないけど、魂が飛んでいるみたいですね。

死にかけたりしたことはないんですか?

ありますよ。個人的に特に危なかった経験はパラシュートが開かなかったことが2回と飛行機が失速してひっくり返った時かな。

パラシュートって、布と紐で畳んであるんですけど、どんなにきちんと畳んでいても、何千回に一回は紐が引っかかったりして、綺麗にパラシュートが開かないことがあるんです。それは空に飛んでいる最中に直せる場合もあるし、直らない場合もある。紐がグルグルとよじれているくらいだったら直せたりするんですけど、紐同士が完全に結びついちゃっていると直せない。その死にかけたときは、僕がパラシュートをうまく開けなかったのでパラシュートを切り離して、予備のパラシュートを開きましたね。

伊藤さんが経験された飛行機が失速してひっくり返った時というのは?

その時はスカイダイビングを10人で一斉にやろうとなっていて、一斉に飛行機から飛び降りた。そしたら、飛行機のバランスが崩ずして失速してしまい、飛行機がひっくり返ってそのまま木の葉のように真下に急降下してしまったんです。

一斉に飛び降りたスカイダイバー達以外にも、飛行機に乗っている人がいて、僕もその一人でした。失速し始めたことに気づいたパイロットは怒鳴って、「出ろ出ろ出ろ!」と叫びました。

僕はその声を聞いた瞬間、慌てて空に飛び込んだんです。外に出たら、自分と飛行機が一緒に急降下していったんです。そして、気づいたら飛行機は空にお腹を向けていて、ひっくり返り飛行機が横にグルグルと回るんですよ。その飛行機は羽にプロペラが二個付いていたので、もしそのプロペラにあたっていたら、僕はバラバラになっていましたね。

その後、その飛行機は墜落してしまったんですか?

それが腕の良いベテランパイロットだったので、飛行機の頭を地上に向けて、思いっきりスピードをつけて、バランスを取り戻して、上空に戻したんです。落ち始めた高度が4キロで高かったから大丈夫だったんですが、下手なパイロットだったらそのまま墜落していましたね。

空にはハプニングがあります。準備をきちんとしていても、起きてしまう時があります。なので、常に正しい知識と想定をしておくことが大切です。

 

2015年米国カリフォルニア上空

目標は東京オリンピック。

ギネスという目標を達成したわけですが、今後の新しい目標などはありますか?

そもそも、ギネス記録と言ってもただの数字の世界なので飛んでるときって別に楽しくも何ともないんですよ。景色は変わらないし、ただずっと落ちないように遠くを見ながら飛んで、数字を見て目標を超えているか超えていないかというだけの話なので。

だから次は世界遺産などまだ誰も飛んだことのない場所から飛んでみたいですね。

誰も飛んだことのないところを飛ぶのは、いろいろ大変では?

例えば、富士山上空を飛ぶのは特別な許可が必要でお金もかかる。それをクリアして、まだ誰もやったことのないことを挑戦する方が面白いかなと。

飛ぶこと自体は、ただ飛んでるだけなので技術的に特別なことをしてるわけじゃない。なので、誰も飛んだことのないところを飛んで、その時の景色を撮影し、動画や画像にして世に出したいと思っています。それがCMやテレビ番組になって、それがきっかけでイベントに呼んでもらったりしながら、みんなにウイングスーツや空からの景色を見てもらい感動を共有したいですね。

そういう表現に目標があるということですか?

そうですね。形にしたいですね。今の目標としてはオリンピックの開会式で飛びたいと思ってます。もしやるなら、僕一人で飛ぶんじゃなくて世界の代表の人達を集めてやりたいです。オリンピックなので、日本がホストでやって、後はアメリカやヨーロッパなど各国から来てもらい、その代表の人たちと一緒に20人、30人でも編隊を組んでやれたらいいですね。開会式は夜に開催されるそうなので、ウイングスーツにLEDをつけて、光っているところを世界中の人達に見て貰らえたらいいな。

2015年米国カリフォルニア上空

太古の昔から、人類が憧れてきた事の一つは「空を飛ぶ」という事じゃないかと思う。
翼を持たない人間にとって、スカイスポーツはある種の夢を実現するための一つの手段と言える。中でもウイングスーツは、人類が空を飛ぶための究極手段と考えても良い。
そんなウイングスーツに没頭する伊藤氏は、空に魅せられた人類の夢に挑む冒険家の一人だ。
彼はきっと自分の限界まで「飛ぶこと」にこだわり、挑戦し続ける。
そして、彼が飛び続ける限り、人類の夢の景色が私たちの元に届けられるだろう。
東京オリンピックという大イベントで、彼の夢が形となって世界中に配信される日を楽しみに待ちたいと思う。

文:MOVE編集部

PROFILE

選手プロフィール
伊藤 慎一

伊藤 慎一

プロウイングスーツ・パイロット。
2011年、ウイングスーツ最高飛行速度363km/h、2012年、ウイングスーツ最高総合飛行距離28.7km、ウイングスーツ水平直線飛行距離26.9kmのギネス世界記録を樹立。
BIRDMAN社Top Gunチーム所属。
株式会社リスクコントロール 代表取締役。
BIRDMAN WINGSUITS 代表。

選手公式SNSアカウント

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伊藤 慎一

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プロウイングスーツ・パイロット。
2011年、ウイングスーツ最高飛行速度363km/h、2012年、ウイングスーツ最高総合飛行距離28.7km、ウイングスーツ水平直線飛行距離26.9kmのギネス世界記録を樹立。
BIRDMAN社Top Gunチーム所属。
株式会社リスクコントロール 代表取締役。
BIRDMAN WINGSUITS 代表。

選手公式ウェブサイト http://wingsuits.jp/ 選手公式SNSアカウント

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伊藤 慎一

伊藤 慎一

プロウイングスーツ・パイロット。
2011年、ウイングスーツ最高飛行速度363km/h、2012年、ウイングスーツ最高総合飛行距離28.7km、ウイングスーツ水平直線飛行距離26.9kmのギネス世界記録を樹立。
BIRDMAN社Top Gunチーム所属。
株式会社リスクコントロール 代表取締役。
BIRDMAN WINGSUITS 代表。

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